築地・豊洲に集まる世界の美味しいもの発信メディア

築地でたった1軒の与勢物(よせもの)屋さん!老舗「高砂屋」

こんにちは編集部シノブです。

築地というと、まっさきに思い浮かぶのは魚であることはまちがいないと思いますが、卵焼きや鶏肉、塩、料理道具などの専門店が店を構えていることでも知られています。

今回は、そんな専門店の1つ、与勢物(よせもの)屋「高砂屋」さんへうかがってきました。

 

▲老舗の年季を感じるたたずまい

 

 

与勢物(よせもの)ってなんですか?

みなさんは“与勢物”と聞いて、どのようなものか想像がつきますか? 「勢い
」を「与える」食べ物とは、いったいどのようなものでしょう。築地で60年以上続く「高砂屋」の箕輪さんに教えていただきます。

 

▲高砂屋のご主人、箕輪さん

 

シノブ
箕輪さん、こんにちは。外国のお客さまがとても多いですね。びっくりしました。

 

箕輪さん
ここ4、5年はこんな感じですよ。午前中でも9時、10時になると魚屋さんはいませんから。歩いているのは観光のお客さんです。

 

シノブ
高砂屋さんでは、みなさん「練り切り」を買って行かれるんですね。

 

▲見た目にも美しい練り切り

 

 

箕輪さん
はい、練り切りと苺大福。和菓子だからおもしろいようで、みなさんまじまじと見ては、1つ2つ、買って行きますよ。

 

シノブ
こういった練り切りも高砂屋さんでは作っていらっしゃるんですね。昔からですか?

 

箕輪さん
はい、昔からずっと作っています。昔は折詰めに練り切りを入れていましたから、それで今もこうして作っています。

 

シノブ
折詰めに練り切りを入れていたんですね。

 

箕輪さん
折詰めって知っていますか?

 

シノブ
はい、折り箱に鯛や、伊達巻、かまぼこなどが入っている、お祝いの席などでいただいたことがあります。最近あまり見かけなくなりましたが。

 

箕輪さん
うちは、その折詰めに入れる「よせもの」を作っています。最近はもう折詰めを結婚式で出すというホテルなどはほとんどなくなってきています。

 

シノブ
そうなんですね。確かに、友人などの結婚式で、そういったものが入った折詰めが出たという経験はないです。

 

箕輪さん
そうだと思います。数でいえば非常に少ないですよ。「よせもの」ってどういう漢字を書くかわかりますか?

 

シノブ
えっと…「寄せる」に「物」で「寄せ物」でしょうか。

 

箕輪さん
そう思うでしょう。でもちがうんです。「勢い」を「与える」と書いて「与勢物」です。

 

シノブ
そうなんですね。お祝いの席などに、祝いに勢いを与える、ということなんでしょうか?

 

箕輪さん
勢いを与えるようなかたちで、結婚式におめでたいものを作るっていう意味があります。

 

シノブ
そうなのですね。高砂屋さんではどのような与勢物を作ってらっしゃるんですか?

 

箕輪さん
焼き鯛、海老、栗きんとん、豆きんとん、煮物、伊達巻、照り焼き、錦巻き、羊羹、赤飯などです。結婚式の折詰めの材料を作っています。

 

シノブ
いろいろな種類をつくってらっしゃるんですね。

 

箕輪さん
海の幸、山の幸を彩りよく入れるのが折詰めなんです。

 

 

築地に買い出しにくる料亭の板前さんも納得する「栗きんとん」

材料は栗、金時芋、砂糖、塩のみ。栗とさつまいもの風味を最大限に活かすには、栗とさつまいもの絶妙な調和が重要といわれています。熟練の職人がつくる高砂屋さんの栗きんとんは、舌触りがよく、甘すぎず、雑味のない味わいに驚いてしまいます。

 

シノブ
栗きんとんは、高砂屋さんの工場で作っているんですか?

 

箕輪さん
はい、そうです。築地のなかの向こうに工場があって、そこで作っています。

 

▲栗きんとんなどの練り物は場外の工場で作られている

 

 

シノブ
いつ頃から栗きんとんを作っているんですか?

 

箕輪さん
うちがここに入ったのは昭和27年で、もう60年以上も前。だけど、築地に来る前から、私の祖母の時代から作っているのでもうずっと作っています。

 

シノブ
それは長いこと作ってらっしゃいますね。その頃と今と、製法はちがうんですか?

 

箕輪さん
変わらずやっていますよ。皮むきからすべて、自分たちでやっています。栗きんとんは、職人が変わると、味も何もかもちがっちゃうんです。だから昔から変わらず、やっています。

 

シノブ
高砂屋さんの栗きんとんは、餡まで美味しかったです。

 

▲舌がとろける栗きんとん

 

 

箕輪さん
餡に使っているのは千葉県産の金時芋です。餡は、直火で芋を煮込むのですが、芋の状態を見極めながら砂糖を入れて、なめらかに練り上げていきます。これはとても難しい作業だと思います。

 

シノブ
なるほど、芋の状態を見極めながら、丁寧に練り上げていくから、雑味のないまろやかで優しい味わいになるのですね。栗きんとんというと、お正月のイメージが強いのですが、高砂屋さんの栗きんとんは、思い出すとまた食べたくなりますね。高級な和菓子のようで、お茶菓子などにお出しすると喜ばれそうですね。

 

 

姿・形・色・味、どこをとっても一級品。めでたい日の「祝い鯛」

お食い初めやお祝いごとの席に用意される「祝い鯛」。鯛を焼くには熟練の技を要すると言われており、下処理から串打ち、化粧塩、焼き入れと大変な手間暇がかかります。焼きあがった鯛は、お祝いにふさわしく、魚体は紅色に、化粧塩で白く“紅白”色に。高砂屋さんでは長年試行錯誤を繰り返し、焼き鯛を焼き続けることに尽力しています。

 

▲おめでたいイベントに使う祝い鯛

 

シノブ
鯛を焼くときのいちばんのポイントは?

 

箕輪さん
塩の使い方ですね。魚自体が悪くちゃダメですが、塩の振り加減で味がずいぶんと変わります。「化粧塩」と言ったりしますが、塩の振り加減。

 

シノブ
鯛のどの部分に塩を振るのでしょうか?

 

箕輪さん
塩を振る前にまず串を打ちます。串を打った鯛の尾びれ、腹びれ、胸びれ、背びれに塩をつけていきます。

 

▲化粧塩をまぶしているところ

 

 

シノブ
塩はひれにもつけるんですね

 

箕輪さん
塩をつけるとひれが焦げることなく、形よくきれいに焼き上がります。

 

シノブ
なるほど、そうなのですね。さきほどおっしゃった、塩をふるまえに串を打つというのは?

 

箕輪さん
頭から串を刺して、体が波打つようにします。

 

 

▲串打ち

 

 

シノブ
それはどうしてですか?

 

箕輪さん
焼き鯛の頭と尾が持ち上がって、御膳にのったときに跳ねているような、美しい姿に焼きあがるからです。

 

シノブ
串打ちをするのはそういう理由があるんですね。串打ちをして、塩をふったら、次は焼きに入るのでしょうか?

 

箕輪さん
はい、焼き窯で焼いていきます。

 

シノブ
どのくらいで焼きあがるんですか?

 

箕輪さん
時間は、大きさによってちがいますし、鯛の身質の状態はさまざまです。それぞれの魚に合わせて焼き時間を調整します。

 

シノブ
焼き窯で焼くのはどうしてですか?

 

箕輪さん
全体に火を通して焼き上げるので身に臭みなどが残りませんね。

 

シノブ
焼きあがった鯛の美しいピンク色と塩の白のコントラスト、飛び跳ねたような形はそのようにして作られているんですね。これはプロの技、家ではできませんね。

 

▲200℃の高温で焼き上げます

 

 

箕輪さん
鯛は焼くのがとても難しいと思います。下処理にも非常に手間がかかるんです。

 

シノブ
下処理というのは、内臓を出したりすることですか?

 

箕輪
そうです。コケを引いて、お腹をだすのですが、これが相当なものです。

 

シノブ
コケを引くというのは?

 

箕輪さん
鱗をとることをコケを引くっていいます。コケ引きという道具で鱗をとるんですが、鯛の鱗は大きくて硬い。イワシのように押せばとれるわけでもないんです。コケ引きでとるとバリバリ音がするほどです。散らかるし、なかなか取れない。

 

シノブ
お聞きするだけでも大変そうです。それを1匹1匹、作業するわけですもんね。

 

箕輪さん
毎日毎日、そんなにたくさんの注文が来るわけではないし、できる範囲内でしか注文は受けないので、なんとかやっています。それでも、お正月だけは焼く量が、万単位になりますので、年の暮れは相当なものです。

 

▲年末は戦争状態になるそうです

 

 

シノブ
えっ、万単位でくるんですか?

 

箕輪さん
手間暇のかかる作業なので、デパートやお店など、みなさん、焼いていられないんでしょう。それで頼むわって、注文が来るんです。

 

シノブ
築地で買えない魚は無いと言われていますが、困ったときの築地頼みですね。

by
編集者/ライター。東京・下町生まれ。旅と町歩きとカメラが趣味。人生最後の晩餐はお寿司と決めている魚好き。