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干物、食べてますか?

香ばしいかおり、かんだ時にジュワッとあふれ出す脂、そして絶妙な塩加減に白米が止まらない……。みなさん干物は好きですか?こんにちは、干物大好き編集部シノブです。今回、築地場内に店を構える干物の老舗仲卸「大市」にうかがい、最近の干物事情についてお話を聞いてきました!

 

日本橋魚河岸で開業

築地場内を進むと、所狭しと箱が積まれたお店があります。鮮魚を扱う仲卸さんとはちょっと変わった雰囲気のこのお店は、干物を専門に扱う老舗の仲卸・大市(だいいち)。大市の山口さんに干物についてお話をうかがいました。

 

 

▲山積みの発泡スチロールが「The 仲卸」感

 

 

シノブ
大市さんは、店構え、お店の雰囲気が、他の仲卸さんとちがいますね。

 

山口さん
そう?ずっとここでやってるからわからないなあ(笑)

 

シノブ
鮮魚の仲卸さんだと、大きな冷蔵庫があって、いけすの中に魚がいたり、氷を張ったり。それと、仕事してる方たちもみなさん長靴を履いて、Tシャツに防水エプロンして、という出で立ちという印象があります。

 

山口さん
うちで扱う商品は、発泡スチロールや段ボールに入っていて、魚をさばくこともないですからね。

 

シノブ
なるほど、そういうことなんですね。たしかに、水を使わないから、お店の床も乾いていますよね。山口さんも、築地の多くの方が履いている長靴も履いてらっしゃらない。

 

山口さん
僕はいつもワイシャツ(笑)。

 

 

▲素敵なシャツを着こなす山口さん

 

シノブ
カチっとしてらっしゃいますよね。場内だと独特な感じがします。大市さんは、いつ頃から仲卸を営んでいらっしゃるんですか?

 

山口さん
うちは日本橋の頃からやっています。

 

シノブ
築地に移転する前の、日本橋に魚河岸があった頃からです。社長は何代目ですか?

 

山口さん
僕は4代目です。

 

シノブ
当時から干物を専門でやっていたのですか?

 

山口さん
いえ、当時は、鮮魚を中心にやっていたと聞いています。干物もその頃から扱っていたようです。

 

シノブ
そうなんですね。干物って、保存食としては大昔から作られていると史料に残っていたりしますが「天日干しにすると美味しい」という商品的に作られたのっていつの頃からなのでしょうか?

 

山口さん
はっきりとしたことはわかりませんが、東京で干物が普及し始めたのは、私の祖父の頃からじゃないかなあ。地方で、魚の加工品などを作っているところが、水揚げされた鮮魚を塩水につけて、天日干しにすると美味しいっていう風潮が生まれて。それが東京に入ってくるようになったようですよ。

 

 

▲天日干しされている干物の図

 

 

シノブ
そうなんですね。大市さんでは干物は作っているんですか?

 

山口さん
鮮魚をやっていた頃は、海辺の方で干して作っていましたよ。ここで仕入れた魚を干物にしてね。

 

シノブ
海辺の方というと?

山口さん
いまでいう「月島」です。あの辺りは一面が原っぱでしたからね。そこへ魚を持って行き、干していました。

 

シノブ
月島はその面影はないですね。月島で干物を作っていたのはいつ頃ですか?

 

山口さん
昭和20年代、日本橋から築地に移転したあとですね。

 

シノブ
いまは干物は作っていないんですか?

 

山口さん
はい、いまは作っていません。

 

シノブ
この辺りは干すところもないですよね。

 

山口さん
いまではよほど空気のよい場所でないと。大気汚染なんかの心配もあるし。天日干しは、一定の高いレベルの品質を保つのがとても難しいようです。

 

シノブ
なるほど。このあたりで天日干しというのは……厳しそうですね。築地には全国から高品質の美味しい干物が集まってきますしね。

 

山口さん
そうですね。うちではそういう上質な干物をメインにやっています。

 

ノドグロ人気の火付け役は錦織選手!?

シノブ
大市さんで扱っている干物は何種類くらいあるのですか?

 

山口さん
だいたい200種類くらい。大小のサイズちがいも入れてね。

 

シノブ
200種類もあるのですか!? 干物って、種類自体、そんなに多くなく、シンプルなイメージがありました。

 

▲様々な種類がある干物。こちらはキンメダイ

 

 

山口さん
例えば、イワシを1つとっても、片口イワシ、ウルメイワシ、真イワシなどがありますし、干物といっても、天日干し、一夜干し、夜干し、灰干し、機械干し、などいろいろありますから。

 

干物は、芯までじっくりと塩を染み込ませて、魚の旨味を引き出して、乾燥させ、余分な水分を取りながら旨味を熟成させていきます。「天日干し」は屋外で太陽の光と自然の風にあてます。「一夜干し」は日光にあてず、一晩、冷たい夜風に当てて乾燥。「灰干し」は灰の上に魚と吸水紙を交互に重ね、灰をかぶせ時間をかけて魚から水分を均一に脱水します。

 

シノブ
何干しにするのがいちばん美味しいっていうのはあるのですか?

 

山口さん
それぞれに良さがあります。一概にこれというのは言えません。いい魚を使って、手間暇かけて作られたものは美味しいですよ。

 

シノブ
築地にはそういった手間暇かけて作られた美味しい干物が集まってくるわけですね。最近はどのような干物が人気ですか?

 

山口さん
ノドグロはよくでますよ。以前はアジがよく出ていたけど、アジは最近あんまり出ないね。

 

 

▲干物といえば・・・の代表アジの開き

 

 

シノブ
え !? アジが、ですか? 私、アジとサンマ、ホッケの干物は、魚屋さんでよく買って食べますよ。

 

山口さん
若いのにめずらしいね(笑)

 

シノブ
小学生の娘がいるのですが、魚が大好きなんですよね。とくに焼き魚が。

 

山口さん
焼き魚? マグロとかサーモンの刺身じゃなくて?

 

シノブ
はい、焼き魚の方が好きですね。しかも、塩焼きよりも干物なんですよ。将来、飲んべえになるのかなあ(笑)。ノドグロは、東京では馴染みがなかった魚だと思うのですが、ここ何年かでよく聞くようになりました。

 

山口さん
テニスの錦織選手がテレビで『ノドグロが食べたい』って言ったそうで、それから注目されるようになったようですよ。彼は島根出身だからノドグロをよく食べていたみたいだね。

 

シノブ
あ、それ何かで見た記憶があります。どこかの国で世界大会があって、記者会見で言ったんですよね。

 

山口さん
「日本に帰国したら何が楽しみですか?」だったかなあ。そういう質問を受けて「ノドグロが食べたい」って答えたそうです。そのあたりからノドグロはよく出るようになりましたね。

 

 

▲人気のノドグロ、小ぶりでも味は抜群

 

 

シノブ
それで東京でもノドグロをよく見かけるようになったのですね。それにしても、アジがあまりでなくなったというのは意外です。

 

山口さん
むかしは、干物とごはん、味噌汁っていうのが決まった朝ごはんでね。安くてうまいアジは好まれたんだろうけど。いま食生活は変わったでしょう。魚も食べなくなっているでしょう。

 

シノブ
朝、ゆっくりご飯を食べたり、魚を焼いたりする余裕はないですね……温泉宿などでも、朝食にアジの干物ってあまり見かけなくなった気もします。

 

山口さん
だけど、アジの代わりに、ホッケはよく出るよ。

 

シノブ
ホッケ! ホッケは居酒屋さんに行くと、みんなだいたい頼みますよね。20代の若い子などでも「魚はぜんぜん食べないけどホッケは好き」っていう声を聞いたことがあります。

 

 

▲居酒屋メニューで大人気のほっけ

 

 

山口さん
そうなんですね。若い人も食べるのかあ。うちのお客様でも、居酒屋さんはホッケをよく持って行かれますよ。

 

シノブ
干物って知ってる?ってきくと、ホッケの干物をつつきながら「なにそれ、干物は食べたことない」って(笑)。

 

山口さん
ホッケの干物は骨離れが良いし、脂ものっていて、食べやすいのかなあ。

 

シノブ
しかもボリュームがあって、値段も手頃。美味しい魚と出会って、魚を好きになってくれたらいいなあって、魚好きのひとりとして思います。だって、干物って本当に美味しいですもん。


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編集者/ライター。東京・下町生まれ。旅と町歩きとカメラが趣味。人生最後の晩餐はお寿司と決めている魚好き。