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べったら漬ってどうしてべったら漬っていうの?

築地の老舗・漬物店「吉岡屋」さんの看板商品の1つに「べったら漬」があります。前々から思っていたのですが、べったら漬って面白い名前ですよね。今回は、そんなべったら漬について吉岡屋さんに聞きいて来ました。

 

吉岡屋さんのべったら漬

 

シノブ
吉岡屋さんというと、奈良漬、そしてべったら漬が2大巨頭というイメージがあります。

 

南澤さん
はい。奈良漬、べったら漬、それと季節ごとの漬物はとくに人気があり、お客さまは持っていかれますね。

 

シノブ
吉岡屋さんのべったら漬の特徴はどんなところにありますか?

 

南澤さん
うちのは、さっぱりとした甘みで漬け込んでいます。

 

シノブ
私、実は、べったら漬のあの、あまーい感じが苦手で…。でも、おっしゃる通り、吉岡屋さんのべったら漬はさっぱりとしていて食べやすいんですよね。

 

南澤さん
うちの漬物のこだわりと言うのでしょうか、口に入れた瞬間の、第一印象の味わいを大事にしています。うちのべったら漬を食べやすいとお感じになられたのは、きっと、食べた瞬間の「甘い!」というのがなくて、さっぱりとしているからではないでしょうか。

 

シノブ
なるほど、なんだかすごく納得がいきました。私の場合、他のべったら漬は、口に入れた瞬間「甘すぎる…」と感じてしまって、それが強すぎて、イコール「美味しい」っていうことにならなくて。甘すぎて苦手、となってしまっていました。

 

南澤さん
それと、うちのべったら漬は、皮付きと皮むきとの2種類があります。

 

シノブ
皮がついたままのべったら漬があるのですか?

 

南澤さん
はい、そうです。皮付きは、皮のついたままの大根を砂糖と麹で漬け込みます。皮むきと比べて、細かな手作業と、漬け込むのに2倍の日数がかかるんですよ。

 

シノブ
皮付きは手間がかかるのですね。

 

南澤さん
皮をむかない大根は、中まで漬かりにくいんです。そのため、麹床で2度ほど漬け替えをします。

 

シノブ
漬け時間が長いということは、その分よく漬かりますね。

 

南澤さん
麹の芳醇な香りがちがってくるかと思います。通常のべったら漬のほぼ2倍の日数をかけて漬け込んでいますから。

 

シノブ
べったら漬って、そもそもどのようにして作るのですか?

 

南澤さん
大根を浅く塩漬けして、漬かった大根を米麹と砂糖で本漬けをします。

 

シノブ
そうなのですね。あの独特な香り、あとを引くやさしい味わいはそうやって作られるのですね。

 

日本橋で開催される「べったら市」

シノブ
吉岡屋さんは、べったら市にも出店されていますよね。

 

南澤さん
はい、昨年も出店しました。

 

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「べったら市」とは?

東京日本橋小伝馬町の「えびす神社」のえびす講(※)の前夜祭として行われるのがべったら市。その歴史は古く、江戸時代、えびす講のための供物や三方、神具類をはじめ、食料品などを持ち寄った市がはじまりで、これが現代まで続いている。この市で、江戸近郊の農家の人々が、その年の秋に収穫した新漬大根や干し大根を塩糠に漬けたものや、今のべったら漬けにあたる麹で甘みをつけ、醗酵させて風味をつけた浅漬大根などが売られた。毎年10月19日の晩に開催。

※七福神の恵比寿様への感謝の意を込めて行う行事で、商売繁盛、五穀豊穣を祈念する。

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シノブ
一度、行ったことがあるのですが、売り方がおもしろいですよね。「べったら!べったら!」と勇ましい掛け声で。

 

南澤さん
縁起ものですので景気づけですね。

 

シノブ
吉岡屋さんは、べったら市では何を販売されるんですか?

 

南澤さん
皮付きべったら、皮なしべったら、ゆずべったら、大根葉。それに、昨年は麹つながりで、うちのオススメの「ゆめぴりか甘酒」も販売しました。

 

シノブ
お客さまは常連さんが多いのですか?

 

南澤さん
毎年お越しくださるお客さまから、べったら市が初めてという方までいらっしゃいます。いろいろとご試食いただいて、気に入っていただいて、買っていってくださいます。

 

シノブ
今年も10月19日に開催されますね。楽しみにしています。

 

 

べったら漬について調べてみました。

吉岡屋さんへうかがった足で、べったら漬の“べったら”はどういう意味なのか、図書館に行って調べてみました。『日本橋区史』によると…

「こうじで漬けたるたくあん漬をべったら、べったらと呼んで、婦人等に対していたずらをなせしに出ずると言う」

との記載がありました。

 

べったら漬を切ったことのある方はご存知だと思いますが、べったら漬の表面は麹でベタっとしています。どうやら、麹で漬けたたくあん漬を2〜3本、縄で束ね、若い衆が手に提げ「べとつくぞ、べとつくぞ」と、婦人を追い回してふざけていたそうです。その「べとつくぞ」が「べったら」になり、べったら漬と呼ばれるようになったようです。

 

べったら漬を季語に見立てたこんな句も発見しました。

 

「べったらを 送り申し候 秋便り」(作者不明)

 

東京生まれのべったら漬は、秋大根の出始めの頃、本たくあんに先駆けて漬けられ店頭に並んだそうです。みなさんも、べったら漬で秋を味わってみてはいかがでしょうか。

by
編集者/ライター。東京・下町生まれ。旅と町歩きとカメラが趣味。人生最後の晩餐はお寿司と決めている魚好き。