こんにちは、築地市場で働くそういちろうです。
今回のテーマはマグロについてです!日本人が大好きなマグロ。マグロ美味しいですよね。
マグロの赤身、中トロ、大トロといえば王道の寿司ネタです。取引先の回転寿司チェーンの社長さんに聞くと、「マグロの仕入れが4割だよ」と、いかに日本人がマグロ大好きか分かるってもんです。
ところで、私達が大好きなマグロですけど、普段食べているそのマグロの種類って知ってますか?種類が違えば味も違うはずですが、その違いを知ってます??
私は築地で働くようになってから、マグロにも種類があることを知りました。
お客さんから「おう、インドくれ」と初めて言われたとき、頭の中には大きな「?」が浮かんできました。
「イ、インド?そ、それはカレーですか?」という質問をぐっと飲み込んで、先輩に質問しにいった昔が懐かしいです。
皆さんが一般的にマグロを目にする機会は、下記の3つでしょうか。
・本マグロ(値段は高め、赤身と中トロが多い。値段は高め。養殖と表記されていることが多い。)
・メバチマグロ(赤身が多い。値段はそこそこ。商品数が最も多い。)
・ビンチョウマグロ(色が白い。値段が安い。よく特売されている。)
まず、スーパーと違ってマグロの種類が表記されていることが少ない。ただ単に、赤身・中トロ・大トロという寿司になっている。
・メバチマグロ(赤身が中心。)
・ビンチョウマグロ(白い。マグロなのに白い・・)
・本マグロ(値段は高め、だが旨いっ。赤身・中トロ・大トロが揃う。天然か養殖かは表示されていない)
・ミナミマグロ(寿司屋の大将はインドと言っている。値段は本マグロよりやや安い。赤身・中トロ・大トロが揃う。)
と、これだけでもマグロの種類を全部網羅しているかどうか分からないですよね。
さらには、天然マグロなのか養殖マグロなのか、冷凍を解凍したものか生のままのマグロなのかと分類はさらに細分化されます。
あなたの頭の中でも、整理されない名もなきマグロが泳いでいることでしょう。
でも、もしマグロの種類を知っていれば、
寿司屋に行って「やっぱり、本マは旨いねぇ。おっ、こっちのインドは酸味が鮮やかだ」とつぶやけば、カウンターの奥にいる大将の目が光ること間違いなしです。(単にうざい)
この記事を読むと、以下の効能を約束いたします。
男性:食通を装うことができる。女性(彼女、妻、職場の同僚)にドヤ顔でき、自尊心が満たされる。
女性:お寿司屋さんで注文に迷わない。男性(彼氏、夫、職場の同僚)に知識でマウントを取れる。
話がそれましたので、本題に戻しましょう。
「マグロに関することは、マグロ屋に聞け。」私を育ててくれた婆ちゃんの言葉です。(嘘)
私、そういちろうは築地市場で働いていますので、早速、マグロ屋のプロに話を聞きに行きます。
築地市場のマグロ仲卸の老舗「大宗」を訪ねました。
いつもお世話になってる大宗の井辻さんに話を聞きます。広島カープと長渕剛をこよなく愛する熱い男です。セィ。
「井辻さーん、マグロの種類をてっとり早く教えてください。」
「てっとり早く(笑)。それじゃ、マグロの競り場で説明しますから、ついてきてください。」
という訳で、早速、井辻さんに連れられてマグロの競り場に足を踏み入れます。
4時過ぎにマグロの競り場に行ったので、まだマグロを並べている作業中にお邪魔します。超低温冷凍庫から、カッチカチの冷凍マグロを競り場に運び入れています。
皆さんがお忙しい中、早速井辻さんにマグロの種類について話を聞きます。
「まずは、現在マグロの王様として君臨する本マグロについて説明します。学名ではクロマグロですが、築地だと本マグロと言われています。略してホンマです。」
「ホンマに?」
「・・・」
競り場に並べている、冷凍本マグロをチェック。大西洋クロマグロで大きな本マグロは、205kgと表示してありますね。
ちなみに冷凍マグロは内蔵を抜いた状態で競りにかけられます。
「本マグロの有名な例では、築地の初競りのマグロですね。1億5千万もの値段で競り落とされたことがありましたね。味はマグロの王様にふさわしく、濃厚で爽やかな酸味があります。食べてから口に旨味の余韻が残って、鼻に抜ける香りがなんともいえません。」
「お寿司で食べる本マグロの赤身って最高ですよねぇ。」(通ぶって言ってみる)
漁師が本マグロを水揚げしてから、一度も冷凍されずに市場に入荷されます。水揚げから市場までの一貫したコールドチェーン流通の賜物です。
単純にマグロといっても、色々な人の手をへてお寿司屋さんや食卓にマグロが届くんですね。
今日は北海道の戸井からの本マグロがありました。(青森の大間と同じ漁場)
身の艶が新鮮さを物語っています。
「本マグロは天然ものと養殖ものが存在します。大間のマグロは、最高級の天然本マグロとしてのブランドを確立していますし、2002年に完全養殖に成功した近畿大学の近大マグロは養殖本マグロとして非常に有名ですね。」
「養殖マグロの進歩にはびっくりさせられますよね。昔は養殖マグロは臭かったという話を聞くんですが、今はそんなことないですよね。私の取引先も天然よりも脂ののった養殖本マグロの方を好むお客さんがいます。脂第一主義!なんですね(笑)」
「そしてマグロの入荷状態ですが、市場には冷凍と生どちらの状態でも入荷しています。冷凍の天然本マグロの産地は、大西洋のアイルランドが有名です。生の天然本マグロの産地は、日本近海だと季節によって南の沖縄から北は北海道。本マグロは餌を追って北へ遡上していくんですね。餌をたっぷり食べて身に脂を蓄えながら北上します。冬場の有名な産地は、大間(青森)と戸井、松前(北海道)など。外国からはボストンから空輸されていて、ボストンマグロは魚体が大きくジャンボなんて呼ばれています。」
「築地にくるまで、本マグロがアイルランドやボストンからやって来てるなんて思いも知れませんでしたね。」
ボストン産の本マグロは、空輸の運賃を安くするためか頭を切り落とした状態で入荷されます。
「養殖の本マグロ、これも冷凍と生で入荷しています。冷凍の養殖本マグロは、スペインやモロッコ、メキシコから輸入されます。生の養殖ものは鹿児島の奄美、沖縄、長崎、和歌山、京都の伊根も有名です。養殖本マグロは今後のマグロ需要の高まりを受けて、商社などがこぞって生産に参入しています。」
「マグロの大きさはどうなんですか?」
「天然の本マグロは60-150kgくらいが多いです。450kgを超える魚体の本マグロが水揚げされたことがあります。養殖本マグロは、30-50kgの魚体が多いです。これは2-3年でマグロを成長させて出荷することが最も効率が良いからです。」
本マグロは他のマグロに比べて、キメが細かく旨味が強いのが特徴です。旨味と酸味のバランスがピカイチです。
「本マグロだけで、この情報量。すでにお腹いっぱいですが、続けてください。」
「次はミナミマグロです。市場ではインドマグロと呼んでます。インド洋で多く水揚げされるので、インドマグロなんですね。昔は本マグロよりも重宝され、お寿司屋さんの中ではインドマグロのみを扱うお店もあります。味は独特の旨味と甘みが特徴で、本マグロに匹敵する美味しさです。ただ、一般的なスーパーでミナミマグロを見ることは少ないですね。」
「確かにスーパーでは見ないですねぇ。食通が知るマグロですね。」
「本マグロと同様に、ミナミマグロには天然と養殖が存在します。ただし養殖本マグロが活況を呈しているのに比べて、養殖ミナミマグロはそれほど扱い量が多くありません。これは天然と比べるとやや劣る品質であること、天然と養殖の価格差が投資に見合ってないので生産量が増えないことなどの理由がありそうです。」
「マグロの世界も市場(マーケット)の動静に敏感なんですね。魚市場に入荷されるだけに・・」(ドャ)
「・・・」(無視)
「入荷状態は冷凍と生どちらもあります。冷凍は通年入荷され、産地はオーストラリア、ニュージーランドなど。日本船も南半球で操業してますので、水揚げ地が国内であれば国産となります。生は季節が限られ、4-6月ころニュージーランドなどから空輸されます。南アフリカのケープタウンからも来ます。この時期は近海の本マグロ漁の水揚げが悪く、ミナミマグロの方が身質が優れていることも多いです。」
「魚体の大きさはどうですか?」
「本マグロほど大きくなりません。冷凍ミナミマグロは40-70kgサイズが主体です。どんなに大きくとも200kgを超えることはありませんね。またミナミマグロの一番の特徴は色が濃いことです。黒っぽく見えてしまうことがあり小売店での販売を敬遠されがちですが、味は申し分がなく是非皆さんに食べてほしいマグロです。」
後日、行きつけのお寿司屋さんでミナミマグロ三点をお刺身にしてもらう。ミナミマグロは脂に甘みがあるのが特徴ですね。赤身は他のマグロに比べて色が濃く、色持ちが重要なスーパーではあまり販売されていないのです。
もし、お寿司屋さんでミナミマグロ(インドマグロ)があったら、ぜひ食べてみてください。旨さが分かりますよ!
「3番めのマグロは、メバチマグロです。目が大きいので目鉢と言うわけです。市場だとバチマグロで通じます。値段は本マグロ・ミナミマグロより安く、スーパーで販売しやすい価格帯です。マグロの身の色も明るく解凍してから色持ちの時間が長いので、提供まで時間のかかる小売店や宅配、仕出し・大量のお刺身を用意する宴会用として重宝されています。」
「冷凍マグロの競り場に並べられた、メバチマグロは圧巻ですよね。」
競り場に冷凍メバチマグロを並べていますが、正直言って冷凍状態だとどれが何マグロかさっぱり分かりません。(笑)
他のマグロに比べて、お目々がぱっちりしているので、目鉢マグロって言うんですね。確かに目がおっきくてかわいい顔をしてます。
「また、メバチマグロに養殖はありません。値段が安価なので養殖しても回収ができないからです。流通するメバチマグロはほとんどが冷凍で、世界中の海に広く分布しています。近海の生メバチマグロは、夏から冬にかけて千葉県の銚子や宮城県の塩釜などで水揚げされ、あっさりした味の中に旨味と甘みを感じることができます。」
「魚体はミナミマグロよりも小さく、市場では30-50kgが主体でしょうか。魚体が大きくならないこともあり赤身がほとんどですが、漁場によっては美味しい中トロが取れるメバチマグロもあります。ちなみにメバチマグロから大トロはとれません。」
「ところで安さが魅力のメバチマグロですけど、2015年くらいから競り値が上がってますよね。」
「そうなんです。水揚げ量の減少や和食ブームによる世界的な人気で、市場に入荷する総量が減っています。ですから安いからメバチマグロを選ぶというのではなく、魚の価値にあった価格で継続性がある流通になってくれればいいですね。」
本マグロやミナミマグロと違って、メバチマグロはピンク色っぽいです。それだけに色持ちがよく重宝されるマグロです。
メバチマグロの味はピンからキリまであります。本音を話せば、全く味のしない色味だけよいメバチマグロもたくさんありますが、脂が適度にのったメバチマグロは上位のマグロを凌ぐ美味しさがあります。
「あ、名前の由来は知ってます。体に黄色味があるので、黄肌マグロですよね。」
「そうです、正解です。身の色が薄いピンク色のマグロです。冷凍で流通しメバチマグロよりは若干安い魚です。魚体は30-40kgで、大きくても100kgに達しません。関東よりも関西地方で食されるマグロです。味は良く言えばあっさり、悪く言えば味がしない魚です。メバチマグロと同様に、養殖ものはないです。」
「そういえば過去に営業したお客さんから、とにかく安いマグロのキハダマグロを納品してと言われることがありました。」
関東の市場では、ひっそりと取引されるキハダマグロ。
キハダマグロはメバチマグロよりもさらに色が薄く、よりピンク色をした身です。
「旬の夏の時期に和歌山などで水揚げされる生のキハダマグロは、脂が乗っていて非常に美味しいです。とても同じ種類のキハダマグロとは思えません。本来、天然の魚は1尾1尾品質が違うものですので、キハダマグロだから美味しくないというはありません。」
「実はビンチョウマグロだけは、市場で競りにかけられません。マグロ類の中では最も安く魚体も10-40kgサイズと小さいです。元々お刺身や寿司ネタというよりも、ツナ缶の原料として利用されてきました。100円回転寿司の新しい寿司ネタや、スーパーの特売お刺身商材として新たに生食用で販売され始めました。色は白もしくは薄ピンク色です。」
「市場にはどのような形態で入荷してるんですか?」
「ビンチョウマグロはロイン加工されて製品として入荷されます。ロインとは節のことです。魚を4つに割って皮や骨などを取り除いてあります。他のマグロは市場で解体することが多いですが、ビンチョウマグロは全量が加工されています。加工されていた方が安価に流通できるからです。」
写真はビンチョウマグロのたたき(製品)として、市場に入荷されている。たいていはお刺身用の節の状態(ロイン)で流通している。
回転寿司ですっかりおなじみの、白いビンチョウマグロ。
ビンチョウマグロでも脂がのったトロビンチョウといいますが、回転寿司で食べたトロビンチョウが意外と美味しくてびっくりしたことがあります。
「長々とありがとうございました。これでマグロの種類について記事が書けます。いやぁそれにしても、マグロといってもこれだけ多岐に渡るんですね。とても一口では説明できないです。寿司だけに一口とはいきません。」
「えっ・・・」(寿司は一口と言いたそうな井辻氏)
まぐろ屋のプロに教えてもらった、マグロの種類や違いを頭にめぐらしながら市場の氷屋さんの前を通って、職場に戻る私であった。
あー、マグロって奥が深いです。
築地市場のマグロのプロに聞いた、マグロの種類を表にまとめてみました。
これであなたも明日からマグロ博士になれます!食通ですよっ!
|
天然 |
養殖 |
味など |
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生 |
冷凍 |
生 |
冷凍 |
||
本マグロ(クロマグロ) Pacific bluefin tuna |
大間産で有名。冬の本マグロは味がよく非常に高価。 |
ヨーロッパの大西洋がメイン。冷凍状態がよく、生にも負けない美味しさ。 |
日本各地で養殖。マグロ需要の高まりとともに流通量が増加。 |
地中海で養殖が盛ん。スーパーの本マグロはほとんどがこのマグロ。 |
味が濃く、本マグロ特有の酸味や香りが特徴。 |
ミナミマグロ(インドマグロ) Southern bluefin tuna |
夏前にニュージーランドなどの南半球から空輸。 |
オーストラリア、ニュージーランド産。魚体が小さく使いやすい。 |
ほとんどなし |
ほとんど流通していない。養殖マグロの需要は本マグロが主体。 |
色が濃い。身に甘みがあるのが特徴。酢飯とあう。 |
メバチマグロ Bigeye tuna |
秋から冬にかけての生メバチは高級マグロを超えることもある。 |
流通量が多い。スーパーのマグロといったらこれ。 |
なし |
なし |
色が明るく、使いやすい。味は本マグロ、ミナミマグロより薄い。 |
キハダマグロ Yellowfin tuna |
旬の夏、脂がのった生キハダは美味しい。 |
メバチより安値で流通。 |
なし |
なし |
色も味も薄いものが多い。関東では人気がない。 |
ビンチョウマグロ Albacore |
市場では稀に入荷する。 |
加工された製品が市場で流通。 |
なし |
なし |
色が白く値段が安い。脂がのったトロビンチョウもあり。 |
マグロの種類を勉強して、本当に美味しいマグロが食べたくなった方は下記へ。市場のプロが厳選したマグロをお届けします。