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マグロの競りで真の品質を見極める

こんにちは、編集部の忍(以下、シノブ)です。
前回、築地の仲卸「大宗(だいそう)」さんにお話をうかがいに行った話の続きです。

 

前回の記事はこちら

https://gyogun.net/2018/05/15/%E9%AD%9A%E6%B2%B3%E5%B2%B8%E3%82%92%E6%94%AF%E3%81%88%E3%82%8B%E3%80%8C%E5%8D%B8%E3%80%8D%E3%81%AE%E4%BB%95%E4%BA%8B/

 

実は、その日は朝から競りを見学させてもらっていました。

朝5時半。
合図の鐘が鳴り響くと競りが始まります。

セリ人が声をあげ、買い手は手やり(指サインで価格を伝える)で応じる。セリ場には獲物を逃すまいと半端でない緊張感が走ります。

今回はそんな“マグロの競り”についてお話をうかがいました。

 

お客さんのための1本を買う

競り場には大間や勝本などの産地から大卸5社が集めた生マグロが並び、別のセリ場には、北米のボストン、地中海や大西洋、南半球のオーストラリア、ニュージーランド、南アフリカのケープタウンなどから集まってきた冷凍マグロが数百本、並びます。そしてマグロの周りには、仲卸業者が集まり、競りが始まる前にマグロの状態を見て、買い値を算段していきます。

 

シノブ
マグロの競りは、いくつかの場所にわけて行われるんですね。

 

白田社長 
生と冷凍にわけて行われています。扱い量で比べると、1対4で冷凍が多い。セリの時間は、生の場合は5時20分、冷凍のメバチは5時40分、インドマグロは6時から、というかたちに、種類ごとに大卸5社が一斉に鐘の合図で競りを始めます。

 

▲マグロの競り場

 

 

シノブ 
マグロ1本あたり、だいたいどのくらい時間がかかるんですか?

 

白田社長 
だいたい1本、3秒で決まります。

 

シノブ 
え!? 3秒ですか?もっと時間がかかるものかと思っていました。

 

白田社長 
本数がたくさんありますからね。それを1本、1本やっていくので、セリはどんどん進んでいきますよ。

 

セリでは、セリ人がマグロに貼られた番号を告げると、数人の仲卸がさっと手を挙げ、指を折り曲げし、自分の値付けをセリ人に伝えます。この指のしぐさは「手やり」と呼ばれ、セリ人はそのなかから手やりの数字を瞬時に読み、最高値を示した仲卸を特定していきます。

 

シノブ 
手やりでセリ値を示し、単独であればすんなり買えるけれど、他にも希望者がいる場合は競り合いになるんですよね?

 

白田社長 
そうです。セリが始まる前に“下付(したづけ)”というのですが、並べられたマグロを見て、欲しいマグロを選びます。そのときに、だいたいこのくらいまでなら買おうという値段を考えてノートにつけますので、セリでは、それを基準にして競ります。

 

▲マグロの下付け風景

 

 

シノブ 
そこで賭けに出るか、引くかは勝負どころですね。

 

白田社長 
そうかもしれません。生半可な気持ちで参加したら商売になりません。セリに対して神経をとがらせるのは当たり前で、そうでないといいものは落とせません。セリに出るときはいまでも緊張しますよ。

 

シノブ 
セリ場にはどんな気持ちで毎朝、向かうんですか?

 

白田社長 
難しいなあ(苦笑)。我々は、お客さまに喜んでいただけるマグロを探しに行っています。「あのマグロ、おいしかったよ」って言っていただけるために。日々その積み重ねで、ありがたいことに、お客さまから「マグロはお前から買いたい」と言っていただけるので、その思いだけセリに上がっています。

 

シノブ 
白田社長が買う1本は、お客さまのために買う1本なんですね。

 

 

シノブ 
マグロ1本あたり、だいたいどのくらい時間がかかるんですか?

 

白田社長 
だいたい1本、3秒で決まります。

 

シノブ 
え!? 3秒ですか?もっと時間がかかるものかと思っていました。

 

白田社長 
本数がたくさんありますからね。それを1本、1本やっていくので、セリはどんどん進んでいきますよ。

 

セリでは、セリ人がマグロに貼られた番号を告げると、数人の仲卸がさっと手を挙げ、指を折り曲げし、自分の値付けをセリ人に伝えます。この指のしぐさは「手やり」と呼ばれ、セリ人はそのなかから手やりの数字を瞬時に読み、最高値を示した仲卸を特定していきます。

 

▲競りで使われる手やり(符丁)の図

引用:東京都中央卸売市場

 

シノブ 
手やりでセリ値を示し、単独であればすんなり買えるけれど、他にも希望者がいる場合は競り合いになるんですよね?

 

白田社長 
そうです。セリが始まる前に“下付(したづけ)”というのですが、並べられたマグロを見て、欲しいマグロを選びます。そのときに、だいたいこのくらいまでなら買おうという値段を考えてノートにつけますので、セリでは、それを基準にして競ります。

 

シノブ 
そこで賭けに出るか、引くかは勝負どころですね。

 

白田社長 
そうかもしれません。生半可な気持ちで参加したら商売になりません。セリに対して神経をとがらせるのは当たり前で、そうでないといいものは落とせません。セリに出るときはいまでも緊張しますよ。

 

シノブ 
セリ場にはどんな気持ちで毎朝、向かうんですか?

 

白田社長 
難しいなあ(苦笑)。我々は、お客さまに喜んでいただけるマグロを探しに行っています。「あのマグロ、おいしかったよ」って言っていただけるために。日々その積み重ねで、ありがたいことに、お客さまから「マグロはお前から買いたい」と言っていただけるので、その思いだけセリに上がっています。

 

シノブ 
白田社長が買う1本は、お客さまのために買う1本なんですね。

 

 

尾の身を触り、腹をのぞく・・・目利きがマグロをつなぐ

セリが始まる前、仲卸の方たちは、それぞれのスタイルでマグロを見て下付をします。見ているのは、身肉がのぞく腹中や、尾の断面、目、形などさまざま。

シノブ 
大宗さんでは、どのようにしてマグロのセリに参加するんですか?

 

白田社長 
うちは5人にわかれ、それぞれが担当のマグロを買いに行きます。私はインドマグロの担当です。

 

シノブ 
下付もそれぞれの担当の方が行うのですか?

 

白田社長 
はい、そうです。うちでは基本的に参加する場所が決まっています。それぞれ自分が慣れたところに行きます。

 

シノブ 
懐中電灯で身を照らし、尾の身を指先で押したりして、みなさんいろいろにマグロを見ているんですね。

 

白田社長 
ああしてみんな、鮮度や色、肉質、脂のノリなどを確認したりしているのでしょう。私の場合は、おいしい魚しか見ないようにしています。

 

▲自身のこだわりを語る白田社長

 

シノブ 
「おいしい魚だけ」というのはどういうことですか?

 

白田社長 
これは私なりの基準なのですが、尾、目、腹、皮目、形、などを見て、たとえば「目が澄んでいて皮に艶がある」とか「胴がむっちりしていて、小判形に太っている」とか「脂にざらつきがなく、きめこまやか」など、知見や好みと経験とすべてをひっくるめて総合的に見るんです。そこから私の思う“おいしい魚”を見分けて、競りに加わるマグロを決めています。

うちで冷凍のインドマグロは、あそこにいる井辻くんが担当しています。彼も彼独自の見方で、下付をしていると思います。それで、自分のお客さまに見合う魚を見つけているはずです。

 

店の奥で、今朝、セリ落としてきた冷凍マグロをバンドソー(大型の電動のこぎり台)で切り分けているのが冷凍インドマグロ担当の井辻さん。井辻さんにも下付の際のポイントを教えていただきます。

▲マグロについて丁寧に説明してくれる井辻さん

 

シノブ 
井辻さんは魚のどのようなところを見るんですか?

 

井辻さん 
まず体形や張り、身肉がのぞく腹中や、切れた尾の断面を見ます。懐中電灯で照らして、鮮度や色、肉質を確認して、身を指先で押して脂のノリなどを見ます。白田社長の下付はついていくのが大変です。端から端まで全部、見て歩くのですが、白田社長にはコレという「おいしい魚」がビシっと見えてくるようです。

 

シノブ 
白田社長は、言葉で説明するのが難しいんだけど、ぱっと見た魚体の勢いや全体的な印象で「これはおいしい魚にちがいない」というのがあるとおっしゃっていました。

 

井辻さん 
そうなんだと思います。私の場合は、マグロの見た目以外にも、マグロの胴には産地や漁法、船名を書いた紙が貼られていて、漁場やどこの国の船が獲ったものなのかチェックします。

 

シノブ 
「漁場を見る」というのは、いいエサを食べて育ったマグロの方がおいしいのかなと想像がつくのですが、漁法や船名も見るのはどうしてですか?

 

井辻さん 
同じレベルのマグロであれば、漁がうまくて、扱いが丁寧な船のものを選びます。マグロは釣り上げたら、内臓をはずし、脳天と尾から神経を抜きます。そして腹に氷を詰めて、船倉の氷水で冷やしこみます。

この作業は素早くやらなければならず、遅ければ、マグロの体温は上昇して身が焼けてしまうんです。マグロは開いて見ないと、身焼けしているかなど本当の質がわかならい難しい魚です。

 

マグロは釣って終わりではなく、おいしいマグロにするには釣った後の“鉄則”があるのだそうです。その鉄則とは、釣り上げたら、尾を落とし、内臓を外し、神経を抜き、腹に氷を詰めるという一連の作業は、釣れた瞬間から魚体を冷やすくらいの勢いでやらなければならないというもの。

 

水揚げの際も、やわらかな腹をつぶさないように常に腹を上にする。氷の入れ方にも気を配り、皮の艶やキラキラ感がはがれてしまわないようにし、ボディも尾もラップでカバーするなど細心の注意を払う。こういったことがきちんと為されているマグロは状態が非常に良いのだそう。

 

井辻さん 
そんな風にマグロを見てまわって、気になった魚の番号をノートに書き留めておき、もう一度戻って、腹の中や尾の断面から、身の色や脂のつき具合などを確認して、セリに加わる魚を決めます。

 

シノブ 
マグロのお腹をのぞいて、尾の身を触って、ジッと目を凝らしてマグロを見る姿は、まるで医者の診察のようですね。

 

井辻さん 
よく下付する人を「魚の医者」なんて言ったりします。生のマグロの場合は目を見て、目が透明か、澄んだ目をしているか。お腹が古くなって黄色くなっていないか、皮がスレていないか、身体中をくまなく見ますからね。

 

河岸に入って30年の白田社長は、目利きの方法について、先代や先輩などから手取り足取り教わったわけではないと言います。

 

白田社長 
1足す1は2っていう、正解があるわけではないのがこの仕事です。お客さんの好み合った魚を私たちは選びます。魚を選ぶ、ということは、お客さんがほしいという魚を“見る”ことができなければいけない。

見るためには魚のことを知っていなければいけない。自分がお客さんのために選んだ魚に対して、お客さんに『これはダメだね』と言われれば、どこかちがったのかを考えます。その積み重ねです。毎日毎日、そうやって魚の勉強をしています。

 

シノブ 
そうして日々、勉強をされて、丹精込めて選んだ魚。お客さまの反応って気になりますよね。

 

白田社長 
自分が「これはおいしいにちがいない」と選んだ魚をお客さまにお渡しして、後日「あの魚うまかったよ」と返ってきたら、そりゃもううれしいですよ。この上ない喜びです。

 

▲嬉しそうに語る白田社長

 

シノブ 
築地でのお仕事って、見ているだけでも大変なご苦労があるんだろうなと思いますが、そういったお客さまからの言葉をダイレクトに聞くことができる。とてもうれしいですね。

 

白田社長 
そうなんです。日々、勉強で、お客さまにいろんなことを教えていただいています。そして、いろんなことに一喜一憂してね。毎日がそんなことの連続で、刺激的ですよ。

自分が「コレ絶対うまい魚にちがいない」って思って買って、お客さまに「もう、マグロはお前から買うことに決めたよ」なんて言っていただいた時というのは、本当に、この仕事をやっていてよかったなって心から思いますよ。

 

シノブ 
白田社長は、この仕事が、そして本当に魚がお好きなんですね。

 

白田社長 
はい、大好きですよ。うちのみんなもそうだし、ここに、築地にいる人間は、みんな魚が大好きですよ。

 

シノブ 
ちなみにいちばん好きな魚はなんですか?

 

白田社長 
マグロですね。

 

シノブ 
やっぱり(笑)

 

私たちが日々、食べている魚はこうして、長年、魚と対峙しているプロの目と手を経て届けられています。お寿司屋さんや、はたまた食卓で、おいしい魚を食べることができるのは、それだけのワケがあるのです。

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編集者/ライター。東京・下町生まれ。旅と町歩きとカメラが趣味。人生最後の晩餐はお寿司と決めている魚好き。