さざ波が打っているかのように、美しく箱に盛られた見事なウニ。これはウニの生産者が1枚1枚、丁寧に箸で立てられているのだそうです。どうしてここまで美しく盛るのでしょうか。その理由を築地の老舗仲卸「大芳」のウニ担当・宇田川さんに教えていただきます!
シノブ
ウニの競り場には1日にどのくらいのウニが並ぶんですか?
宇田川さん
1日に多くてだいたい8,000枚くらいです。
シノブ
ウニを扱う大卸は何社あるんですか?
宇田川さん
5つあって、2カ所で同時に競りが始まります。朝5時にスタートして「金レベル」という築地で特に評価の高い、つまりいいウニから競ります。
シノブ
下付の時、宇田川さんはどんなところを見るんですか?
宇田川さん
粒がふっくらとしていて、大きくて、形のはっきりとしているものですかね。
シノブ
形がはっきりしているというのは?
宇田川さん
箱にぎっしりと詰まったウニの、粒ぞろい。粒と粒がはっきりとわけられる、という感じです。粒と粒がはっきりとしているのは、ウニそのものの質はもちろんですが、ウニの加工が良い状態にあるかと言えます。
シノブ
加工が良いというのはどういう状態なのでしょうか?
宇田川さん
我々は「乾きがいい」なんて言ったりするのですが、ウニを殻から割って出して、箱に並べる状態までするのには細かな作業があります。この加工によってはヌルヌルして輪郭がぼやけたものなってしまうものもあるんです。
シノブ
下付の時はそういったポイントで1枚1枚、ウニを見ていくんですね。
ウニは当たり外れがとても大きく、同じ時に仕入れた同じ生産者のものでも、一箱一箱、味がちがうのだそうです。そのため宇田川さんは必ず、全部の箱、一箱一箱の味をチェックします。それを行わないと、怖くてとてもお客様にはお出しできないと宇田川さんは言います。
シノブ
築地で扱っているウニはすべて国産なんですか?
宇田川さん
築地には、北海道のウニをはじめ、北方四島、北米、カナダ、南米、中国、北朝鮮など、世界中のウニが集まってきます。北海道の国産ウニは評価がいちばん高いです。
シノブ
そういったウニはすべて箱ウニなのでしょうか?
宇田川さん
箱ウニが圧倒的に多く、殻がついた状態の生きウニ、海水に付けられた海水ウニなどもあります。
シノブ
お寿司屋さんで生きた殻付きのウニを使わないで箱ウニを使うのはどうしてでしょうか?殻を割るのが大変だからですか?
宇田川さん
殻を割るのが大変ということもあると思いますが、何より箱ウニの方が美味しいからではないでしょうか。
シノブ
箱ウニの方が美味しいというのはどういうことでしょうか?
宇田川さん
生きウニは殻を割ってみるまで、身の状態も鮮度もわかりません。ウニは1個1個の味の差がとても大きいんです。同じ産地のものをたとえば10個、殻を割ってみて味をみても、全部が美味しいということは、おそらくまずありえないでしょう。
シノブ
そうなんですね。同じ時期に同じ産地で獲れたものであれば、味は均一のようなイメージがありました。
宇田川さん
箱ウニは、どのようにして並べられているかわかりますか?
シノブ
殻から出したウニを順に並べて行く…のでしょうか。
宇田川さん
獲れたウニは、生産者の方々が、毎日、何百、何千と殻を割って、中身を選別するんです。1つ1つ選別し、レベル分けして、箱に並べたものが箱ウニなんです。
シノブ
えっ、ウニの1つ1つ選別しているんですか?
宇田川さん
そうです。それだけウニは1個1個の味の差が大きいんです。
シノブ
味に個体差の大きなウニを、選別してレベル分けして、近いもの同士を箱に並べるということなんですね。
宇田川さん
その通りです。ですから、お寿司屋さんにとっては、中を開けてみないとわからない生きウニより、箱ウニの方が断然、使いやすいのでしょう。
ウニは産地も非常に大事ですが、生産者の方々がどれだけこだわっていいウニを集め、丁寧に加工をしているかで評価が決まると宇田川さんは言います。宇田川さんのお話をお聞きして、箱ウニには箱になっている意味があるのだということを知りました。
シノブ
宇田川さん、このウニの箱に貼られた「金」はなんですか?
宇田川さん
これは最上級の証である「金」です。これが貼られるものは頂点のほんの一握りで、星がつく高級なお寿司屋さんで使われるものです。
シノブ
やっぱり最高に美味しいんですか?
宇田川さん
まちがいなく美味しいですよ。産地は季節によって変わりますが、その時期にいちばん美味しいものです。エゾバフンウニは甘味が濃厚で香り高く、口の中での旨味の残留感がとても強い。キタムラサキウニは品がよく、さっぱりとした味わいで、スッと口の中で溶けていきます。
シノブ
それはぜひ食べて見たいです。ウニを毎日、何百、何千と見ている生産者の方々が選別した最高レベルのウニというわけですもんね。そして、その中から、さらに、競り場で、宇田川さんが確かめたものがこちらということですよね。
宇田川さん
我々、仲卸が毎日、厳しく評価をして、美味しいウニには高値をつけます。そうでないウニには決して高い評価はつけません。ウニの生産者さんも、ミョウバンの使い方など工夫して、なんとかおいしいウニを作ろうと務めてくださっていますよ。
シノブ
ちなみに、今日のこちらは宇田川さんのお墨付きのウニですか?
宇田川さん
はい、今日はいいのが入りました。
シノブ
さきほど、仕入れにいらした方に宇田川さん「今日はいいよ」と声をかけてらっしゃいましたが、あれは?
宇田川さん
あの方は寿司店の親方です。ウニはいつもうちから持って行ってくださるのですが、今日のウニは親方に使っていただいて間違いのないものなので、今日のはいいですよ、とお伝えしたんです。
シノブ
もしあの親方にオススメできないウニの場合はどうされるんですか?
宇田川さん
「今日はダメです」とお伝えしますよ。
シノブ
はっきりと、ダメですって言うんですね。
宇田川さん
もちろんですよ。親方がご自分のお店で出すのに見合ったウニでないのですから。それはきちんと、ないと言います。
シノブ
それはすごい信頼関係ですね。
宇田川さん
失礼なものはお出しできませんよ。
日に何百、何千というウニを見ている宇田川さん。その凄まじい経験値で磨いた眼力で選び抜く「美味しい」というウニを、ぜひ味わってみたいと思いました。