こんにちは、編集部のシノブです。
みなさん、ウニは好きですか?
シャリとともに弾け、口いっぱいに広がる美香と上品でやさしい甘み、そしてそのあと訪れる深い磯の味わい。思い出すだけで食べたくなってきてしまいますよね。
でもそもそもウニって、カタチといい、色といい、とても不思議な生き物。
今回、そんなウニの美味さの正体を、老舗・仲卸の大芳さんに聞いてきました!
築地場内に店を構える大芳(だいよし)は、千葉県浦安で貝を獲り行商をしていたのが始まりで、築地に根を下ろして80余年になる老舗仲卸。今回は、大芳でウニを担当する宇田川さんにお話を伺います。
シノブ
宇田川さん、ウニはヒトデの仲間だと聞いたことがあるのですが。
宇田川さん
はい。ウニはヒトデの仲間で「棘皮動物(きょくひどうぶつ)」と言います。全身をトゲで被われている動物なのでそのような呼び方をするそうです。
シノブ
私たちが食べているウニはその殻を割った部分なんですよね?
宇田川さん
そうです。ウニはメスとオスとがあって、メスの場合は卵巣を、オスの場合は精巣を食べていることになります。ウニがどんなに大きくても、ひとつの殻には5粒の生殖巣しか入っていません。
シノブ
なるほど、私たちが食べている部分はウニの生殖巣なのですね。そうすると魚と同じように、産卵の時期は身が肥えて美味しいなどあるのでしょうか?
宇田川さん
ウニは産卵し始めて2~3ヶ月はあまりおいしくない時期になります。産卵準備に入った頃から産卵直前のウニが身も肥えて味も濃厚になります。生殖巣が発達している時期ですね。これがウニの“旬”と言われる時です。
シノブ
ウニの旬はいつ頃ですか?
宇田川さん
ウニの産卵期は種類や、ウニが棲む地域によって異なるので一概にいつというのは言えないんですよ。
シノブ
地域によって異なるというのは、海水の温度などが関係してくるんですか?
宇田川さん
はい、そうです。海水の温度や海流によって生息できるウニの種類は異なりますし、地域によっては資源の保護のために禁漁期間を設けているところもあります。
シノブ
日本の海ではどのようなウニが獲れるんですか?
宇田川さん
日本の海では1年中、なにかしらのウニが水揚げされていますよ。おおまかに言うと、夏は日本海側、冬は太平洋側とで分けられて、じゅんぐりに産地が北から南に下がっていきます。
現在、確認されているウニの種類は世界で800種類以上といわれています。そのなかで食用になっているウニは10数種類ほど。国産のウニは北海道・東北地方で獲れるエゾバフンウニ、キタムラサキウニ、中国・九州地方で獲れるバフンウニ、ムラサキウニ、アカウニなどがよく知られています。
宇田川さん
北海道では太平洋に面した襟裳のあたりでは1月から5月、オホーツク海に面した羅臼は2月から5月、雄武は4月から6月、枝幸は6月から8月が旬です。日本海に面した礼文島や利尻、稚内、小樽は6月から8月が旬の時期となり、地域によって違いがあります。
シノブ
北海道のなかでもそれだけ旬の時期に違いがあるんですね。北海道のウニが美味しいって言われているのはどうしてでしょうか?
宇田川さん
ウニは基本的に雑食なのですが海藻を好んで食べます。
シノブ
昆布が好物だと聞いたことがあります。
宇田川さん
昆布の名産地といわれる北海道の利尻、礼文、羅臼、日高、小樽、奥尻は、上物のウニの産地です。
シノブ
つまり、美味しい昆布を食べると、ウニも美味しくなるっていうことですね。
宇田川さん
北国ならではの冷たい海水で育った栄養豊富な昆布を食べて育ち、それがウニの身となるんです。
ウニの旨味成分はメチオニン、グリシン、アラニン、バリン、グルタミン酸などのアミノ酸で、なかでもメチオニン、グリシン、アラニンが甘味を出す上で欠かせないそうです。昆布にはこのアミノ酸が多く含まれているので、昆布とウニの「美味しい関係」が頷けます。
日本でウニは縄文・弥生時代の貝塚から発見されており、紀元前のむかしから食べられていたという史料が残っています。漁獲量は北海道が最も多く、年間漁獲量は約4,500トンで、2位以下の岩手、青森、宮城の東北地方と合わせると全体の約8割を占めるそうです。
シノブ
今朝、ウニの競り場を見せていただいたのですが、ウニの箱が積み上げられた光景は圧巻でした。
宇田川さん
築地にはだいたい日に1万枚くらい入荷します。国内のものだと北海道や三陸のものが多く、外国のものはアメリカのカリフォルニアやロサンゼルスなどの西海岸、ボストンなどの東海岸、カナダ、中国、韓国などのウニが入って来ます。
シノブ
さきほどウニの種類を教えていただきましたが、ウニは色もそれぞれにちがうんですね。
宇田川さん
大きくわけて赤と白の2種類です。
シノブ
赤と白で味はどのようにちがうんでしょうか?
宇田川さん
いわゆる赤ウニというのがエゾバフンウニで、白ウニというのがキタムラサキウニです。赤ウニは可食部分が赤身の濃い色をしていて、白ウニはやや黄色がかった色合いをしています。赤と白のちがい、こちらで食べ比べてみてください。
シノブ
いただきます。
宇田川さん
両者にちがいはありましたか?
シノブ
赤い方が濃厚でクリーミーで甘みが濃いですね。白い方は繊細で淡白、甘さも控えめな感じがします。後味は赤の方が強く残りますね。
宇田川さん
むかしはお寿司でウニといえば、関東は白、北海道や関西では赤だったそうですよ。
シノブ
関東ではキタムラサキウニ、北海道や関西ではエゾバフンウニなんですね。
宇田川さん
最近は、東京でも甘く濃厚な味が好まれるようで、赤を使うお寿司屋さんも多いようです。それぞれ違う味わいがあるので、板前さんたちはご自身のお寿司に合うウニを使うという方もいらっしゃいます。
シノブ
先日、行ったお寿司屋さんでは白が出て来ました。
宇田川さん
それは、白の持ち味を活かすために海苔を使わないのでしょう。シャリとの相性が非常に良いようです。逆に、濃厚な赤は海苔との相性がとても良いので軍艦にしたりしますよね。お店によっては赤と白と両方置いて、両方をお客さんに味わっていただくというところもあるようです。
シノブ
なるほど、そういう違いもあるんですね。
宇田川さん
北海道では白ウニは「ノナ」といい、赤ウニを「ガゼ」とか「ガンゼ」っていうんですが、昔はノナは食べず、ガゼしか食べなかったそうです。白ウニはおいしくないと思われていたようです。
シノブ
そうなんですね。北海道では赤も白も獲れるんですよね?
宇田川さん
はい、獲れます。
シノブ
それが、どうして白ウニを獲るようになったのでしょうか?
宇田川さん
1950年頃に、北海道の噴火湾でキタムラサキウニが異常発生したそうです。それによって名産の昆布が打撃を受けてしまい、キタムラサキウニの駆除を行なったそうです。それでキタムラサキウニを食べてみたら赤ウニと同じくらい美味しかった。
シノブ
それで食べるようになったんですね。
宇田川さん
こんなに美味しいんじゃ東京で売ろうということを思いついたそうで、函館から新橋駅まで運んだそうです。東京で白ウニが根付いていた背景にはこういったこともあるようです。
シノブ
それはおもしろい歴史ですね。
宇田川さん
サカナは旬の時に味わっていただくのが良いです。ウニもそういった旬をたのしんでみてください。
シノブ
この時期のこのウニは美味い!というウニはありますか?
宇田川さん
ウニはおもしろいもので、産地によって本当にちがいます。たとえば北海道で、古平町、余市町、小樽と並んでいます。それぞれの産地のウニを並べて比べてみると、色もカタチも味も、ぜんぜんちがうんですよ。
シノブ
位置的にこんなに隣り合っていて、同じ日本海に面しているのに、ですか?
宇田川さん
ぜんぜんちがいますよ。キャベツだって、育つ土や生産者によってちがいますでしょう?ウニは生息する場所の昆布などを食べて育ちますから、産地によって異なります。古平町、余市町、小樽あたりの、7月15日から8月10日くらいの、なおかつ、今日はいいのが獲れたよっていう日の白ウニは本当に美味しいですよ。
シノブ
それはぜひ食べてみたいです!
宇田川さん
それと同じく北海道で、落石岬の11月20日から12月末までの赤ウニですね。ここのウニは、ほれぼれする時がありますよ。どうだまいったか!っていうようなウニですよ。
シノブ
それも食べてみたいです!
宇田川さん
機会があったらぜひ食べてみてください。本当に美味しいですから。
お寿司屋さんによっては、白ウニにこだわって、年間を通して白ウニが旬を迎える産地のものを追いかけているお店もあるのだそうです。一方で、春から夏は白ウニの最盛期なので、その時期は白を使い、冬になると赤ウニを使う、といったかたちでウニを使い分けているところもあるのだとか。旬を追いかけて、世界各地のウニを味わってみたいですね。