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魚河岸を影で支える容器業の仕事 その1

市場のそこかしこで目にする発泡スチロールのケース、通称“ハッポウ”。
発泡は、魚を入れるのに魚河岸では欠かすことのできない小道具のひとつです。

市場には、この発泡を専門に扱う会社があります。築地市場の83年間の歴史を支え、豊洲市場で新たに歩み始めた容器業「東京空器」の倉庫へおじゃましました。

包装に関わるものは何でも揃える。

豊洲市場で発泡を扱う会社は、東京空器と東京魚類容器の2社。7街区の奥のリサイクル・廃棄物集積所のあるエリアに倉庫を構えています。

2社ともに、戦後間もなく創業した老舗の会社です。今回は、東京空器に勤めて50年以上になる石井さんにお話をうかがいます。

※東京空器のあるエリアは見学者コースには含まれません。一般の方は立入禁止です。

シノブ
すごい数の発泡スチロールですね!こんな数の発泡スチロールは見たことがないです。

石井さん
端から端まで全部そうだよ。うちは、発泡だけじゃなく、魚の包装に関わるものはなんでも置いているよ。

シノブ
ここにあるだけで何種類くらいあるんですか?

石井さん
うーん…何種類あるのかなあ。お客さんによって、使いたいサイズがあるから。50種類以上はあるんじゃないかな。

ーーと、ここでお客さんが来店。

仲卸さん
石井さん、ポリダルとゴミポリ持って行くよ。

石井さん
タルはそれね。ポリは90と40リットルがあるよ。

仲卸さん
いつものやつだと、これ、90を5個ちょうだい。

石井さん
はい、90はこれ。ありがとうございます。

仲卸さんと石井さんは、二言三言の言葉を交わし、仲卸さんは目的の品を抱え、市場へと戻って行きました。

シノブ
今の方は何を持って行かれたんですか?

石井さん
ゴミ袋と、頼まれていたポリダルを持って行きました。

シノブ
東京空器さんでは、ゴミ袋も手に入るんですね。ポリダルというのは?

石井さん
ポリダルは、これ、プラスチックの樽。

シノブ
これ、場内でもよく見かけます。氷水を入れて、中に魚を入れたりしていますよね。

石井さん
そうそう、魚を運んだりする時に使っているよ。昔は、これは木製の樽でね。魚は寝かすと傷むからっていうんで、カツオやタチウオなんかを頭から突っ込んで、魚を立てて置いておくのに使っていたんだよ。

シノブ
なるほど!昔は今のように、氷がすぐ手に入らなかったですもんね。

石井さん
今は、製氷機でもって大量にすぐ作れるから。発泡に氷を入れて魚を運ぶのに使う。だから樽自体、出る数は少なくなってきているかなあ。

シノブ
発泡を使うようになって、ポリ樽の需要が減ったということですか?

石井さん
昔と比べたら減ってはいる。だけど、市場には、使っている方はたくさんいらっしゃる。うちは、1人でも使う方がいらっしゃるなら、在庫するようにしてる。「樽ちょうだい」って注文をいただいて「ありません」とは言えないからね。

シノブ
それでポリ樽も在庫しているんですね。

石井さん
注文をいただいたら、樽に名前を書いて、納品してるよ。

シノブ
この味のある字は、ここで書いてるんですか?

石井さん
そうだよ。今さっきも、書いてたところ。 私の場合はハケで書いてるよ。

ーーと、ここで今度は石井さんの携帯が鳴りました。

石井さん
「はい、はい、わかりました。あとで2本、2階にあげておきますね」

今のお客さんはエアキャップを2本もってきてくれって言うんで、あとで持って行きますよ。

シノブ
エアキャップもあるんですか?

石井さん
あるよ。トラックで魚を運ぶのに、衝撃を抑えるために、エアキャップでもって包むのに使ってる。

シノブ
それでエアキャップも扱っているんですね。

石井さん
魚を包装するのに関わるものは何でも揃えているよ。

塩、軍手、ガムテームにダンボールまで!

シノブ
石井さん、この紙袋、「塩」って書いてあるんですけど、塩も扱っているんですか?

石井さん
そうだよ。活魚を入れておく水氷を、海水に近い状態にするのに塩を使う。真水に魚を入れておくと、ふやけて白くなっちゃうから。粗塩じゃないとダメだね。

シノブ
なるほど、それで塩も、こちらで扱っているんですね。

石井さん
いつからやってるか覚えてないけど、お客さんに「塩ない?」ってきかれて、扱い始めたんだろうね。こっちはマグロの保鮮紙。

シノブ
あ!これ見たことあります。仲卸さんで、サクにしたマグロをこれに包んでいました。

石井さん
あとはダンボールもあるし、発泡スチロールのクーラーボックスもあるし、分荷箱も扱ってるよ。これなんかはあんまり一般の人は見ることがないかなあ。

シノブ
ダンボールもお魚を入れるのに使うんですか?

石井さん
冷凍物を入れたり、干物を入れて発送するのに使うよ。ダンボールもお客さんによって使いたいサイズがいろいろあるから、いろんなサイズを在庫するようにしてる。

シノブ
ダンボールもやっぱり、お客さんのリクエストに応えて扱い始めたんですよね?

石井さん
そうだと思うよ。だって「あのダンボール持ってきて」って言われて、「3日後に入荷します」なんて言ったら「バカヤロー今すぐ使いたいんだよ」って、よそのお店に買いに行っちゃうからね(笑)。だからサイズ、数はつねに揃えるようにしてるよ。

ーーと、ここで再び、石井さんの携帯が鳴りました。

石井さん
「はい、はい、もう持って行きましたよ。あ、追加ですね。わかりました、すぐ届けますね」

シノブ
お忙しいですね。電話がひっきりなしで。

石井さん
そうだね。この時間帯はだいぶ少ない方で、午前2時頃からお昼前くらいがいちばんピークかなあ。うちは24時間、年中無休だよ。

シノブ
お客さんが欲しい時に、欲しいものをお届けしないと、ですもんね。大変なお仕事だなあ…。

石井さん
あとは、なんだろうなあ。軍手もあるし、ガムテープ、ビニール袋でしょ。このビニール袋は氷を入れて保冷用に使っているみたいだよ。氷をそのまま入れるとびちょびちょになっちゃうっていうんで、ビニールに入れて使う。

シノブ
これ、蝋引きの袋ですよね?

石井さん
そうそう、魚はヒレとトゲなんかがあるから、ビニール袋だと穴が開いちゃうっていうんで、蝋袋を使っているお客さんもいらっしゃいる。蝋袋に入れて、それから、このスーパー袋に入れてお渡しするみたい。

シノブ
包むものは一式揃う感じですね。輪ゴムもあるし。

石井さん
そうだね、包装資材はなんでもやってる。お客さんがコレを買ったら、コレに対して輪ゴムはないのか、コレを入れるビニール袋はないのか、ってなるでしょ。それでお客さんの声に応えていった結果、これだけ揃えるようになった。対応できないと、今まで来てくださっていたお客さんがヨソに行っちゃうでしょ。ヨソに行ったら、もう二度と来てくれないから。

シノブ
これはなんですか?

石井さん
これは青紙っていう耐水紙。魚を包むのに使う。

シノブ
これもまたいろんなサイズがありますね。

石井さん
アジやイワシなんかを包むもの、マグロを包むもの、魚によってサイズがあるからね。それに合わせていろんなサイズを用意してるよ。

倉庫に来て、まずずらりと並んだ発泡の数に圧倒されましたが、発泡だけではなく、魚を包装するあらゆるものを取り揃えていることに驚きました。発泡のお話は、また次回に続く。



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