競り場に並ぶ冷凍マグロたち
日本人なら誰でも大好きなマグロ。実に築地市場の仲卸の1/3以上がマグロ屋さんでなんですね。
スーパーに行けばマグロのお刺身がパックになって販売されていますが、意外とマグロのどの部分を食べているか知らない方も多いと思います。
築地に来るまえの私もそうでした・・・
こんちわ、編集部のそういちろうです。築地市場で働いてます。
突然ですが、マグロがどうやってお刺身になるのか興味ありませんか?いったいあの巨大なマグロがどうやって、お刺身になるのでしょう。
築地市場内では冷凍マグロを見かけない日はありません。どのように解体されて、お箸でつまめるお刺身になるか調査しました。
低温の冷凍マグロの競り場に整然と並ぶマグロたち。
顔の横におっきな穴が開いていますね。マグロの鮮度を維持するために、釣り上げてから直ちに血抜きをして、不必要なエラと内蔵をとってしまうからなんです。
そしてこのマグロをGGと呼びます。Gilled(エラ取り) and Gutted(腸取り)という意味です。
また、マグロの尻尾の部分がちょん切れてめくれていますが、これはマグロの下付け(調査)のためのものです。
競り参加者はこの尻尾の部分で、マグロの身質や脂のノリを判断します。
無事競り落とした冷凍マグロを小車にのせて運びます。小さいもので30-40Kg、大きいものだと100Kgを超えるマグロです。
足場は石畳でガタガタ、さらにマグロは丸っこくて凍っていますのですごく滑りやすい。
100Kg近くを足の上に落としたら大変です。
安全靴仕様のマグロ屋御用達の長靴があるくらいです。
マグロを店に運んできたら、マグロ用の大型電動ノコギリ(バンドソー)で四割(4つに分割)にします。
写真のようにマグロの背骨は真っ直ぐではありません。マグロをうまく操りながら、背骨にそって歯を入れます。
背中側が2つ、お腹側が2つと全部で4つに分けますので、四割と呼ばれています。
内蔵をとった空洞がありますので、お腹側の部分になります。右側手前が大トロになる部分ですね。
四つ割りの状態でも、これがいったいどのようになるのか想像がつきません。
これはマグロの背の方です。1/4を1丁と呼びます。この場合、マグロの背ですから背一丁です。
シブイチ(4分の1)とも呼ばれます。英語だと、ロインといいます。
「おう、大将。このマグロの腹一丁くんねぃ。」が正しい注文方法となります。私も言ってみたい。(笑)
それぞれ背2本と腹2本に四つ割りされたマグロを、さらにブロックに切り分けます。
ブロックに分けたあとは、さらに細かくします。皮側の台形の形をカワラと呼びます。瓦に形が似ているからですね。
その瓦から血合や筋を丁寧に取り除いています。
瓦からお刺身が切りやすいように柵(サク)を作っていきます。
マグロの柵の厚みは料理人さんの好みがあります。厚みは親指1本がいいのか、1.5本がいいのか。柵の高さはどのくらいか、などなど。
料理人によって好みが違うためそれぞれに合わせて成形してるんですね。仕事が細かいです。
瓦の部分(皮側)は脂がのっているため、マグロの中トロになります。全てのマグロに脂があるわけではないので、瓦が赤身のままのマグロもいます。
分かりやすいように成形した柵をもう一度くっつけてみました。
これは背一丁の断面図です。皮に近い方が皮下脂肪の脂がノッています。冷たい海水から体を守るために外側に脂肪がのります。
中心に近いほうが赤身となります。赤身の部分は三角形ですので、柵はどうしてもきれいに揃いません。
また、赤身の部分は天をハネるという意味で、テンパネという通称で呼ばれます。
柵の形を見てもらえれば分かるように中トロの柵が一番切りやすく、次いで赤身、大トロの順にお刺身が切り出しにくくなります。
いったん柵取りしたマグロは超低温の冷凍庫に保管されます。マイナス50度から60度です。これほど冷やす魚はマグロ以外はめったにありません。
低温冷凍庫前には、防寒具がかかっています。極寒仕様の長靴とエスキモーのようなコート。
扉が自動で開く超低温冷凍庫です。ものものしい雰囲気です。
外気が冷凍庫内に吹き込むのを防ぐために、扉は二重になっています。まず外側の扉を締めて、それから2枚めの扉を開けます。
二重扉をくぐると、そこは-50度の世界。息をするのも苦しいくらいの寒さです。連続では20-30分の作業が限界です。
これほどまでに低温でないと、マグロは劣化して色がくすんでしまいます。
家庭用の冷凍庫ですと-20度くらいですので、マグロの長期保存には向かないんですね。
家庭でマグロを保管したときに、色が黒くなってしまう原因は温度にあります。
極寒の冷凍庫内で、重い重いマグロを棚に保管します。とてつもない重労働です。とくに夏場は、暑い外と冷たい冷凍庫内の温度差が激しいので体に負担がかかります。
ご苦労さまです。
薄暗い庫内にはエスキモーが生息しています。
ということで、柵に切ったマグロをいつもの親方にお刺身にしてもらいました。
こうしてようやく見たことのあるマグロのお刺身の完成です。遠洋の大海原で水揚げされたマグロが、はるか日本でお刺身になりました。
日本人がマグロにかける情熱に感服します。
よくここまで滞りない流通が築けたものです。
皆さんが食べているマグロは流通・加工・販売をへて届けられているんですね。
さて、次回もためになる魚のネタを考えましょう。そんでは、また。