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魚の知恵袋「魚の旨味のヒミツ」

himono

■旨味のヒミツは「イノシン酸(IMP)」

魚の旨味成分は大きく分けて「グルタミン酸」と「イノシン酸」があります。
この2つの旨味成分が合わさって、はじめて”旨い魚”になります。

「グルタミン酸」は最初から身に含まれているので、問題は「イノシン酸」
となります。

「イノシン酸(以下”IMP”と呼びます)」は、魚が生きている時にはほと
んどありません。

魚の身(魚肉)の中には、エネルギーの元となる「アデノシン3リン酸(以下
”ATP”と呼びます)」という成分が含まれおり、死後徐々にそれが分解し
ていき、IMPが生成されていくのです。

■「イノシン酸(IMP)」の最大値は、死後硬直後10時間くらい!

グルタミン酸は絞めた直後と1日後でもその量がほとんど変わらないのに対し、
IMPは”死後硬直”後から終わるまでにかけて増加していき、その後は大き
な変化はありません。

魚種によって多少違いがありますが、だいたい死後硬直後10時間くらいで
ピークに達します。
(ここで重要なのは、”絞めた後”ではなくて、”死後硬直後”ということです。
それについては後ほど。)

ちなみに、IMPの元となるATPの量は、白身魚(ヒラメやタイなど)より
赤身魚(マグロやカツオなど)方が圧倒的に多いです。

では白身魚は旨味が少ないかというとそういわけではないのです。
白身魚は瞬発的に最大の力を発揮するために「解糖」というエネルギー回路を
使っており、「解糖」の副産物として「乳酸」が生成され、それが白身魚の旨味
の一つになるのですが、それはまた別の話ということで。

■「ATP」を多く残すためには、「絞め方」が重要!

獲る時に魚は暴れますよね。
その時にエネルギー成分であるATPを消費します。

だから、獲って絞めるまでの時間をなるべく短くして、ATPをなるべく消費
させないのが重要となります。

巻き網漁より一本釣りの魚の方が価値が高いのは、それが理由の一つであります。

また、ストレスでもATPを消費するので、水槽で泳がせているお店の魚はどう
なんでしょうか。

そして、もう一つ重要なのが「絞め方」です。

通常、魚は死んだ後、数十分から数時間くらいで死後硬直が始まりますが、
適切な絞め方をして保存すると、死後硬直を遅らせることができます。
そうすることにより、鮮度を保つことができるのです。

当店で扱っているマグロは、お客様が解凍後に死後硬直(ちじれ)が始まります。
新鮮な証拠ですね!(自慢です!)

■まとめ

最後に、魚の旨味を存分に引き出すポイントをまとめると、

1.負担の少ない漁
(なるべく魚を楽に死なせてやることによりATP消費量が少なくなる)

2.適切な絞め方、保存で「死後硬直」を遅らせる。(鮮度を保つ)

3.死後硬直後、しっかり寝かす(IMPをマックスに!)

ちなみに、美味しさは、旨味だけでなく、「歯ごたえ」「舌ざわり」「香り」
「見た目」なども関わってくるので、料理人はそれらの最大値を求めて日々
格闘しているのですね。頭が下がります。

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編集者/クリエイティブディレクター。アナログゲームとブリの照り焼きを愛する元農家。お米は土鍋で炊く派です。