移転延期に思うこと

築地全景

小池知事によって築地市場の豊洲新市場への移転が延期されました。11月7日に豊洲市場が開場予定でしたので、わずか2ヶ月前の計画変更です。

当店は豊洲市場開場を見すえて、先月8月に事務所を引っ越しました。11月の開場から12月の繁忙期までわずか1ヶ月しか猶予がありませんので、早めに行動し年末の計画をたてるためです。それだけに、なぜ今頃になって移転を延期するのかという思いが強いです。

視聴率が稼げるテレビ的なネタとして、弱者である築地の仲卸と官僚組織である東京都の対立を煽っています。「食の安全を守る築地の仲卸」 対 「硬直的で計画がずさんな東京都」という構図は分かりやすく、視聴者にアピールをしやすいのでしょう。しかし、この「分かり易い」対立構造を煽ることは、移転問題の本質を誤って伝えることになります。

築地で働く人たちは、築地市場に非常に愛着を感じています。私がここで働くのも、市場の活気や喧騒が好きだからです。現在の日本はどこに行っても清潔で整頓された所ばかりですが、築地はまるで時代が止まってしまったような場所です。

よい意味では、人情・郷愁を感じられるところ、悪い意味では合理性に背を向けた時代に取り残されたところです。

過去20数年を経て、築地市場の流通総額は3分の2へと減少しています。魚の消費量が減ったことや、市場外流通が増えたためです。流通額の減少にともなって、築地の仲卸も約半数へと数を減らしました。
バブル期には、築地に店を持っているだけで飛ぶように魚が売れましたが、いまや仲卸の相当数が債務超過といわれています。移転に関係なくここ数年でも仲卸の閉店が相次いでいました。

対して、痛みを伴う経営改善をして経営が良好な仲卸もあります。そういった仲卸は閉店する店を買収し、大きくなっています。よい店と悪い店の差がはっきりと目に見えるようになってきました。

銀座に近い築地は、地理的に非常に有利な場所です。対して豊洲市場はアクセスの悪い地域です。短期的には築地から豊洲に移っても、売上があがる見込みはありません。売上が上がる見込みのない引っ越しに、多額の費用を捻出する余裕がない仲卸は移転に反対します。

築地市場は東京都の税金によって運営され、仲卸は格安な賃料など色々な面で優遇されています。本来であれば、経営状態が悪い店舗は都によって退出させられるべきです。売上が上がらない理由は、自分たちが時代の変化に対応できていないからです。

都は過去数十年、新しい仲卸の参入を拒んできました。仲卸権利の名義変更という不透明な取引によってのみ、店を開くことができます。仲卸の新陳代謝を促さないのは、東京都の怠慢といえます。都民の税金を浪費しています。

いずれにしろ老朽化した築地の施設を使い続けるのは、もう限界に近いと思います。流通量が少なくなったとはいえ、現在の築地でも朝の忙しい時間帯には、あちこちで渋滞が発生します。トラック、ターレ、人力の小車、買出人、ひいては観光客が入り乱れます。これは動線が決まってないことによる、明らかな生産性の低下要因です。

低生産性は最終的には商品のコストを増加させます。価値に見合わないコストの増加を、お客さんは喜びません。また、商品価格に転嫁できない場合は、人件費を削るなどで賄うほかがなく、よいことは一つもないです。

大きな事業を達成する過程で、予定通り完璧に事が進むことはありえません。走りながらスピード感を持って、発生した問題を改善するしかないです。懸念される土壌汚染については、多額の費用をかけて対策されています。土壌や大気汚染の検査は済んでおり、それでも問題だという情緒的な反対は科学的ではありません。

築地市場だろうが豊洲市場だろうが、当店が考える大切なことはひとつです。それは、魚を買ってくださるお客さんにどういった価値を提供しつづけられるかです。価値は美味しさであったり、安全性であったりします。
このことさえ念頭に置いていれば、市場がどこであれ行動に迷いはありません。

年末は今度こそ最後の築地となります。お客さんにご迷惑を掛けないように、今から計画を練りたいと思います。
年末まで3ヶ月以上もありますから!