築地での地獄の修行7

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ウニの競りに参加せよとの社長からの司令により、ここ2週間は競り場でウニの種類や競りについて勉強した。

ウニの競り場には低温の保管室がある。そこには世界各国から入荷したウニがずらりと並ぶ。多い日だと箱ウニが1万枚近くあり、ズラリと並ぶ様は壮観だ。

産地は国内だと北海道と三陸(青森、岩手)。一口に北海道といっても、道東、道南、道北と季節によって産地が移り変わる。

海外からだと、品質が良いのがロシア。ロシアといっても北方四島が産地となるので、ほぼ道東産と近しい。

あとは、アメリカ(ロスなどの西海岸とボストンなどの東海岸)メキシコ、カナダなどが人気。中国産も多いが品質にバラつきがある。

朝4時には保管室に入って、今日買いたいウニに目星をつける。買いたいウニの入荷量、競りでの予想価格、もし買えなかった場合は次にどれを狙うかなど。

この作業を下付けといって、競りが始まる5時までにそれぞれの仲買人がメモを片手に保管室をウロウロする。

5時にいよいよ競りが始まる。5社の大卸の競り人が競り台に立つ。競り台は2つあって、同時に威勢のよい掛け声がかかる。

競りに参加する仲買人は、同時に2社の掛け声に注意しなければならない。数分ごとに、競り台に立つ大卸の競り人が交代し、5社がまんべんなく競りを行う。

競り人によって声の調子がまるで違い、人によっては歌を歌っているように聞こえる。

競り人の歌声を録音したものを、ここ2週間は聴きっぱなしだった。いよいよ5時、競りが始まろうとしているが、銀縁の社長は姿が見えない。今は海老の競りに行ってしまってるのだろう。

5時が近づくにつけ、喉が締め付けられるような感覚にとらわれる。今日の競りは俺しかいない。決まった数を競り落とすことができるだろうか。

手で数字を作る(手槍)練習をする。保管庫の中は低温なのに、やけに暑く感じた。

競りデビューまであと5分・・

5時。ウニの競りが始まった。競りは一番よいものから始めるのが慣例だ。今日は回転寿司チェーンのお客さんのために、ボストン辺りの価格帯のウニを180枚買わなければならない。

ボストンウニの競り順はもう少しあとになるが、現在競られている高級ウニの競り値がひとつの指標となる。落札金額が高ければ今日の需要は強く、安ければ需要が弱い。

そして今日は競り値が高値安定だ。そりゃそうだ。今日は3連休前の土曜日。お店はどこも休市(市場休)前に仕入れをしておきたい。

やばい、目標枚数は180枚。ウニ10枚前後で1単位となるから、少なくともボストンレベルのウニを18回競り落とさなければならない。やれるのか?いよいよ自分が下付けしたウニの順番となった。夢中で競り人の声に耳を傾け、

手槍を突く。全く競り落とせない。やばい、想定していた値段よりはるかに高い。

回転寿司チェーンのバイヤーに「すいません、今日は高くて買えませんでした」

なんて言ったら怒鳴りつけられる。ボケっとしていたら自分が買いたいウニはどんどん競り落とされてしまう。値段のことは後だ。とにかく数量だけは確保できるようにしなければならない。

周りの仲買人以上の値段を付けて、ウニを落札していく。10本(100枚)買えた。あと8本。しかしもう狙いのウニの残数が少ない。急遽、別の大卸の同レベルウニに変更して、やっと3本確保。

しかし結果的に5本(50枚)足りなかった。無情にも競りは次の安いウニに移っている。こんなもん買ってもお客さんの要求する品質を満たしていない。

足が震えて視界が狭くなった。やっちまった。数が揃わない。競り人の歌声が遠くの方で聞こえている感覚。

茫然自失の中、バイヤーになんて言い訳しようかって考えた。「今日高かったんスヨー、スンマセン」

駄目だ、軽すぎる。

「時化で入荷ナカッタンスヨー」

駄目だ、すぐバレる。

どうしよ?と泣きそうな顔で現実に戻ってくる。競り場にいるけど、もう戦意喪失。周りに立つ百戦錬磨の仲買人の顔が視界に入ってくる。

あれ?あれあれ?銀縁眼鏡の社長いるじゃん。社長は社長で安いウニをまたいつもの癖で買いまくっている。この時ばかりは地獄で仏。闇夜に提灯。天井から垂れる蜘蛛の糸(?)。

きゃー社長~!超イケメン!。

社長は私だけでは買いきれないとみて、途中から競りに参加していたらしい。ボストンウニもしっかりと数を確保していた。よかった。全てのウニの競りが終わって、社長と二人で店にウニを運ぶ。

「平田くんが全部買えないだろうなんて、お見通しだよ~。アハハハハァー」

なんと言われても今日だけは、破天荒な社長を頼もしく思った。その後、回転寿司に想定の1.5倍の価格のウニを納品し、バイヤー様に向かって二人で謝りたおしたのは言うまでもない。