築地での地獄の修行6

この話は全くもって実話です。メルマガ購読者に築地関係者がいないことを願う。
実録!築地市場での恐ろしい修行の日々1
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社長からの面白ミッションをこなすうちに、築地市場での働き方や魚の知識が増えてきた。
文庫本サイズのお魚百科事典は必ずお尻のポケットに入っている。
通常、仲卸で働くときは自分の担当の魚介類だけを取り扱うので、その魚だけ深い知識を得ることになる。しかし幸いなことに、私は営業も兼ねていたために、鮮魚からマグロ、海老、貝、イカ・タコなど幅広い知識を習得することができた。

この頃になると、社長の仕入れに同行し競り場を歩くようになる。
まずは社長が大好き!海老の競り場。
海老の競りの花型は活けのクルマエビである。競り場には沖縄や九州から入荷されたクルマエビが、1Kg箱におが屑詰めにされて並んでいる。時期によっては、台湾や中国からも運ばれてきている。
5時20分から始まる競りに社長はテンションマックス。次々と手槍(手で数字をだすこと)を突いて、クルマエビを競り落とす。
それを見ながら私は「あ~あ、また注文もらっている以上に買いすぎてるよ。ったく、誰が売るんだよ」(俺だよ)と、ただ傍観(諦観?)しているだけである。【諦観:あきらめ悟ること。チーン。】

次は鮮魚の競り場。隅田川にそったアーチ状の通路が鮮魚の競り場である。鮮魚の場合、競り場と呼んでいるが実際は、荷受(大卸)の担当者との相対取り引きである。
色々な鮮魚がところ狭しと並んでいて、積み上がった発泡スチロール箱の近くに荷受の担当者がいる。

「この天鯛(天然のマダイ)いくら?」
「キロ1800円」
「えー、負かんない。このくらいで」(1500円の手槍)
「300円はムリッ!こんなもんで」(1600円の手槍)
「よし、買った。ウチまで運んどいて」
相対取り引きとは、このように担当者とのやり取りで値段を決定することをいう。

時間も遅くなると(午前7時頃)売れ残った鮮魚やら海老やらを売り切るために荷受は懇意にしている仲卸に声をかけ始める。いわゆる「おっつけ」という。
保存がきかない生鮮を「おっつけ」るのが荷受、「おっつけられる」のが仲卸となり、この後、営業で「おっけ」るのが私、「おっつけられる」のがお客という図式になる。
そして大変困ったことに、社長は「おっつけられる」のが大好きなのだ。社長は遅い時間になると喜々として競り場を詮索しだす。おっつけが効く社長を見ると、荷受がやってきて「買ってくれ」と声をかける。

「平田くーん、買っちゃったよ。天鯛キロ300円。安いねぇ。あっはっは。」
「社長ー。いくら安いったって売り先なかったら損しちゃいますよ!」
「そりゃそーだ、あっはっはっはー。あ、これもチョウダイ。」
(駄目だ、コイツ聞いてねえ)

その後、鯛を2匹しか注文していないお客さんに、事前の断りなく5匹納品して激怒したお客からの電話を受けた社長が一言。

「おかしーな。安いんだぜ、あの天鯛」
(おかしくない、おかしくないよ社長!いい加減に気付けよっ!)と心の中で叫ぶ私。

他の社員から社長が「おっつけ」られないように監視しとけという、裏ミッションを私は拝命することになるのであった・・

鮮魚の競り場を歩きながら、唐突に社長がウニの競りに参加すると言いだした。
以前はやっていたらしいが、今は人出が足りないのでやってないのだそうだ。
「はー、そうすか」と気のない返事をする私。
(ウニは関係ないもんね~と心の中で思う)

銀縁眼鏡が言った。
「んじゃ、明日は4時に来てね(ハート)」

翌朝3時過ぎ、私はマニュアルの軽自動車を爆走させ築地に向かっていた。
「くそっ、油断してた。あの銀縁、ウニまで俺にやらせる気か!」
4時前に築地に到着し、そのまま軽自動車でウニの競り場近くまで向かう。
朝4時の市場内は様相が全く違う。5時半から始まるマグロの競りにあわせて、フォークリフトが冷凍マグロをトラックから降ろしている中を進む。

これが怖い。
フォークリフトで持ち上げられたカッチカチの冷凍マグロは凶器となる。いくら軽自動車とはいえ、薄暗い中、持ち上げられたマグロの下を走るのは恐怖を覚える。
ウニの競りは5時から始まる。競りにのぞむため、4時過ぎにはウニの競り台の後ろにある低温保管庫で、下付け(ウニの値踏み、目利き)を行う。
数千と並ぶウニタワーの中、社長はメモ帳を片手に下付けをしている。
ウニは荷受5社の競りだ。それぞれの荷受のウニに番号がふってある。この番号と競り落としたい金額をメモしておく。

競りが始まる。まずは高級品から始まるのは他の競りでも同様である。
荷受の競り人が威勢のよい声で競りを進めているが、なにを言っているのか全く理解不能だった。それぞれが独自の発声方法で、私にはまるで歌を歌っているように思われた。しかも競りは2社同時に行われる。同時進行している競り人のどちらかに、手槍で金額を知らせるのだ。

社長はというと、高級品には目もくれず、ロスから輸入された安いウニを競り落としている。
競り場から店に戻る途中で、社長がこう言った。
「このウニはグルメ回転寿司に売る。このウニなら冷凍ウニじゃないから、買ってもらえるはず」
麻ひもで縛ったウニの箱タワーを両手に持っていた私は、
「あ、そうなんですか。売り先はあるんですね」
などと呑気なこと言っていた。

それから2-3週間、社長のお供でウニの競りを見学していた私に司令が下された。
「平田くん、もう慣れたでしょ。来週からウニの競りやってもらうわ。私は海老の競りがあるし」
「!!!」

怖い。競りなんて怖い。まず競り人が何言ってんのか分かんないのに、手槍突けるわけない。
そんな不安を読み取ったかのように社長が言う。
「じゃあ、2週間待ってやろう。そしたら競りデビューだッ!」

翌朝から競り人の声を録音して、ウォークマンで何回も聴き続けるという私なりの特訓が始まった。

(次回に続く。)

実録!築地市場での恐ろしい修行の日々7
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